2010/04/07 たまプレ!デスク
川井家の枝垂桜 (by しいの実)
二年前だったか、川井家のしだれ桜を見に行った。桜はやや盛りを過ぎていたが、風にはらはらと舞う花びらであたりは桃色に染まっていた。
川井家の三女と私は、中学の同級であった。もう30年も前の話だ。当時の落合は、日本むかし話に出てきそうなのどかな景色がひろがっていた。川井家には牛や鶏がいた。しだれ桜は広い広い敷地のどこかにあったというあいまいな記憶しか残っていない。
こんなに近くに住んでいながら、せっかくの桜をもう30年も見ていないと、花の時期に久しぶりに三女を訪ね、川井さんのお母さんにご挨拶できたのが二年前だ。
お母さんは、「今年はどこかほかに、お花見に行きましたか?」と私に尋ねる。私は小田原城の桜を見に行ったと答えた。するとお母さんは、本当にうらやましい、と言う。聞けば、もう長いあいだ桜の時期にはどこにも出かけていないのだと言う。「どこの桜も見たことがないの、そう、小田原にね、さぞかしきれいだったことでしょう、私はテレビの中だけでほか土地の桜を見るのよ」と言い、うふふと笑う。あんなに見事なしだれ桜のことだから、花の時期には、あちこちからたくさんの方が訪ねてみえて、家を空けるわけにはいかないのだろう。咲き誇るしだれ桜を毎日見ながら、きっと川井さんは桜の向こうに、ほかの土地の桜を見るのだな、と思う。
私は梅の花が香り始めると、梅の花の向こうに桜を思う。桜の時期までもう間近だと思う。桜のつぼみがふくらみ始めると、川井家のしだれ桜を心に思う。お母さんのうふふ、を思う。だれもが桜を見ながら、桜の向こうに何かを見ているのだ。
2010年4月5日 (by しいの実)

